あなたへ
こんにちは。夏の入道雲を見送り、迎えた秋の高い空にやっとひと息つけるころになりまし
た。おかわりありませんか。
雨上がりの今日は、午前中に久しぶりの庭仕事をしたのですが、長い梅雨、そして暑い日々
を乗り越えて、草木も少しホッとしているように感じました。
午後から買い物や図書館に行くつもりだったのに、思いのほか草抜きに時間と体力を奪われ
てしまい、ひとやすみしながら、土の匂いが立ちこめる庭で手紙を書いています。
土と同じ目線になってみたら、3ミリくらいのバッタの赤ちゃんや、5ミリくらいの小型の
ゲジゲジ虫、地球の素肌に生まれ育つ、幼い生きものたちに出会いました。
私たちもミリの大きさから始まって、細胞分裂を繰り返し、この大きさになってきたわけで
すが、ここまで大きく、そして増えてしまう間に、ちょっと複雑になりすぎてしまいました
ね。
土から目線を上げてみれば、そこに佇む木や花たちは、自分の命を育む分だけの光や水を求
め、周りの生きものと支え合って生きていて。
コンクリートの上では、「生きるためだけに、生きる」ただそれだけのことが、どんなに難
しいことかとため息が出ます。
今日は、そんな私たちの目線を、道路脇にふと逸らしてくれるようなエミリー・ディキンソ
ンの英語の詩に、私なりの言葉を添えておくります。
The Grass so little has to do̶
A Sphere of simple Green̶
With only Butterflies to brood,
And Bees, to entertain̶
And stir all day to pretty tunes
The Breezes fetch along,
And hold the Sunshine, in its lap
And bow to everything,
And thread the Dews, all night, like Pearl,
And make itself so fine
A Duchess were too common
For such a noticing,
And even when it die, to pass
In Odors so divine̶
As lowly spices, laid to sleep̶
Or Spikenards perishing̶
And then to dwell in Sovereign Barns,
And dream the Days away,
The Grass so little has to do,
I wish I were a Hay̶
草葉はそこに佇むだけで
飾り気のない緑の広がりに
蝶は我が子をあたため
ミツバチは遊ぶ
そよ風が運ぶ優しいメロディに
一日中揺られながら
ふところに日だまりを抱き
あらゆることに深く頷いて
そして
一晩中、真珠のような夜露をつなぎ
首飾りにして身にまとうから
どんな華やかに着飾った者も霞んでしまう
やがて生涯を終える時も
自らの命の匂いに包まれながら
味を失うスパイスのように
香り消えゆくハーブのように横たわる
それから雨風しのげる囲いの中で
夢うつつの日々を過ごすだけ
草葉はそこに佇むだけで
私は次の扉が開くのを待ちながら
横たわるだけの草になれたらいいのに
昼を過ぎてから、風が少し強くなってきました。
今日は、自宅から外に出ることなく、庭の草木の気持ちになりながら、親しい友人に手紙を
書き、詩をひっそりと残す。まさに、ディキンソンの世界そのもののような午後を過ごしま
した。
自分自身を生きるのにちょっと疲れた時、誰かのように過ごしてみるのもいいなと思いまし
た。
草木の香りを抱いた安らかな風が、あなたの住む町に吹きますように。
願いを込めて、また手紙を書きます。
あなたのいない夕暮れに。